初心者でも見えてくる!「戦国の城」の見方
『図解 戦国の城がいちばんよくわかる本』の著者であり、現在放送中の大河ドラマ『真田丸』の戦国軍事考証を担当する西股総生さんが初心者はもちろん「城プロ」も唸る、戦国の城の見方を伝授します
【曲輪の縁に沿って歩いてみよう】
城を攻める時は、とにかく主郭を目ざすもの。曲輪の中は最短ルートでつっきりたい。でも、守る立場でじっくり観察するなら、曲輪の縁を歩こう。
曲輪のまわりに横堀が回っていたり、腰曲輪がつくってあったり、竪堀を落と
していたり。そういった縄張りの工夫が、つぎつぎに見つかるはずだ。
広くて平らな場所は、中を歩いている時は曲輪に見えるが、縁を歩くと切岸
(壁)をしっかり削り落としているかどうかが確認できる。切岸(壁)をちゃんと削り落としていないのなら、本気で守りぬくつもりはないわけだから、曲輪とはいえないことになる。
【ノイズに惑わされない】
城跡には、堀・土塁・切岸(壁)とまぎらわしい地形が、何かとまぎれ込んでいる。
あとから付けた道が堀のように見えたり、農家の人が畑をつくるのに土塁を崩した箇所が虎口に見えたり。畑をつくるための段々が腰曲輪に似ていることもあれば、獣よけにつくった土手が、城の土塁とそっくりということもある。
山道が尾根を乗り越えるところにつくった切り通しは、堀切とそっくりな形
をしている。しかも、道そのものが使われなくなって途だえてしまうと、切り通
しだけが残るので、非常にまぎらわしい。
山の上などに社やお堂を建てるために、平らに削ってスペースをつくると、そのまわりに高まりが残って、土塁のように見えることがある。これにダマされる人は結構多い。
城の土塁は防禦のためのものだから、外側の傾斜を急に、内側を少しゆるくつくるのが普通だ。逆に、社やお堂のまわりにある土塁みたいな地形は、内側が垂直に近く削ってあって、外側は自然地形のままになっているから、落ちついてよく観察すれば、区別がつく。
こうしたノイズを一発で見分ける極意は、はっきりいってない。まぎわらしい
パターンを、ひとつひとつ実地で覚えてゆくしかない。
とはいえ、100パーセント見分けるのは無理なので、城の遺構として認めてよいかどうか、研究者の間で意見がわかれる場合も珍しくない。発掘調査を行っても、結論が出るとはかぎらない。
一番大事なのは、城の遺構とまぎらわしいモノが、世の中にはいろいろある、と知っておくこと。よい縄張り図は、城の遺構とまぎらわしい地形とを、ちゃんと区別して描き分けているから、縄張り図をよく見て確認するとよい。
【新発見しない】
城歩きにだんだん慣れてきて、「城を見る目」が少しこえてくると、新しい堀
や曲輪、虎口を発見して手柄を立てたい、という誘惑に駆られることがある。縄張り図を見ながら歩いていると、城域の端っこの方の藪の中に堀がある。で
も、図には描いてない。やった、新発見!でも、落ちついてよく考えてみよう。
縄張り図を描いた人は、ほとんどの場合、あなた(図を描かずに歩いている
人)より城歩きの経験が豊富だ。というか、「城を見る目」がかなりこえていないと、まともな縄張り図は描けない。そうした人が、そうそう簡単に堀を見落とすだろうか。
実際は、新発見と思った堀切は木が倒れた跡、腰曲輪は自然地形(たまたま平らになっていた場所)や畑の跡、竪堀は斜面を水が流れてえぐれた跡、ということがほとんどだ。経験豊かな作図者は、それをよくわかった上で、城の遺構ではないと判断して、図に描きこまなかっただけなのだ。
ところが、こうしたニセの新発見は功名心をくすぐるから、ヘタをすると病みつきになってしまう。こうなると、新発見にばかり心をうばわれて、なんでもかんでも土塁や堀に見えてきてしまうから、「城を見る目」はいつまでたっても養えない。新発見は、めったにあるものではない、と心得よう。
ここにあげた六つの項目を意識しながら、縄張り図と照らし合わせて城を歩く。そして、できるだけ経験豊かな人といっしょに城を歩いたり、講座やツアーに参加して、専門家の説明を聞くようにする。
そうすれば、「城を見る目」がグングンついてくるだろう。「見る目」がこえれば、城のことがよくわかるようになるから、城歩きがいっそう楽しくなるに違いない。
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